ブンカリス県ルパット島のマラッカ海峡密航基地
リアウ州ブンカリス県のルパットRupat)島の某地点に、マラッカ海峡横断用の200馬力エンジンを3基装備した船が。これは、密航用の高速艇で、ルパット島沖合いからわずか20-30分でマレーシア西海岸に到達できる。「数年前までは、何度も密航者を乗せてマラッカ海峡を横断した。帰りは、マレーシアで不法就労を終えて密帰国するインドネシア人を乗せた。あちら(マレーシア)とは、携帯電話でやりとりできる距離だ。海岸の警備をマレー人警察官が担当する晩が決行日さ。なぜなら、華人系警察官が担当の日は、ワイロが効かないからね」と、現在は、リアウ州ドゥマイに暮らす元密航船の船長S氏。マレーシアやシンガポールへ出稼ぎ目的で不法出国する、インドネシア各地から集まった人々にとって、まさに“密航基地”だ。一方、マレー半島からの密輸入品もマラッカ海峡を越えて、その一部がここルパット島やドゥマイのTPI(Tempat Pendaratan Ikan=魚陸揚げ港)へ渡ってくる。マラッカ海峡の《無法ぶり》が実感できる島だ。しかしながら、地元の人々にとっては、何ら不法行為とは映らない現実もある。「その昔、国境なんてものはここには無かった。今のインドネシア側から見れば、マレー半島に親戚がいて、こちらにもマレー半島に住む人々の親戚がいるという状態で、双方が自由に行き来していた。非合法かもしれないが、隣国との円滑な物流に果たした役割も無視できない。つまりマラッカ海峡とは、前庭の単なる水路に過ぎないのさ」と、S氏。
マレーシアへ密航するインドネシア各地から集まった人々が一時的に暮らす村。ルパット島の北西に位置する。トケと呼ばれる密航請負人が設置した仮設住宅が立ち並ぶ。マレーシア側の受け入れ請負人からの連絡を待ち、時には数ヶ月間、こういった村で、決行日を待ちわびることも。ルパット島は、まさにマラッカ海峡の“裏玄関”だ。ブンカリス県は、この島を名実ともにスマトラ島、殊にリアウ州の隣国からの“表玄関”にしようと企画している。
マレーシアへの密航の日を待つ間、ジャワ島やその他のインドネシア地域から集まった人々は、このような長屋で暮らしている。密航費用は事前に決められていて、このルパット島に終結した後は、何ヶ月滞在しようとも、家賃や食費を請求されない。また、密航候補者を世話する女性たちの多くは、近辺の村々から通いで務めている。
ルパット島内の水路に停泊する船舶。不法伐採された丸太を積んで、マラッカ海峡を越え、マレーシア西海岸に渡るため闇の訪れを待っている。手前は、島内各地で行われている、炭焼き産業用のマングローブ材。ルパット産のマングローブ炭は、高火力で火持ちも良く、対岸のマレーシアやシンガポールに輸出されている。正規輸出もあれば、密輸もある。マレーシアやシンガポールからは、さらに第三者の手を経て、日本や韓国、中国にも輸出されているとも。
ルパット島内にある炭焼き小屋。マングルーブに覆われたルパット島。原料の伐採は、無秩序に行われているようだ。炭焼き業者の多くは地元民ではなく、島外からやってきた人々。大木の不法伐採も行われており、ルパット島の生態系の未来が心配されている。
【マラッカ海峡の海賊】
遠くない将来、マラッカ海峡の海賊問題に関して、このブログを通じて、現地ルポを掲載予定です。
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