西部ニューギニアに瞑る新穂智少佐が残した手記 Catatan Mayor Satoru Niiho

「私が戦犯者として死刑になった事については何等卑下する必要はない。和蘭軍が一方的形式的裁判で死刑にするのだ。私は皇国の為に活躍して来たのだ。反つてほこりをもつてゐる」---妻の敏子夫人宛の遺書。

「父は君が未だ母のお腹の中にある時に祖国を出発し、黒き雨降る南溟の地『ニューギニア』に転戦、皇国必勝の信念で最後迄戦ってきたが我が国の敗戦に終わった。そして明後日午前八時死刑を受け銃口の前に立つ。未だ君の顔も見ず死する事を残念に思ふ。そして何等父らしき事の出来なかった事を。母は非常なる苦労をして君を育てられるのだ。母の御恩を忘れてはならない」---未だ見ぬ子智忠君宛の遺書。

新穂智氏が記した『西部ニューギニア横断記』。兵要地誌というよりも博物誌とも言える文化人類学的記録。表紙の署名は新穂智ではなく新穂敏朗と、弟たちの名前の一部を使用した創作。

去る12月27日、“朗報”が飛び込んできた。12月9日の日米開戦69周年当日に記した『太平洋戦争開戦69年。西部ニューギニアに瞑る新穂智少佐が残した手記』。今から61年前、西部ニューギニアのホーランジア（Hollandia→現パプア州の州都ジャヤプラ・Jayapura）で、蘭軍による軍事法廷で戦犯として死刑に処せられた陸軍中野学校第一期卒業生で、宣撫工作隊「神機関」を率いた新穂智（にいほさとる）少佐。

大東亜戦争の初期段階における究極の占領計画地点は、スマトラ島のパレンバン油田地帯。石油確保こそが、太平洋戦争の引き金になったとも言える。戦前、そのパレンバンへ同盟通信社の記者の顔で潜入したであろう新穂智大尉（当時）。言い換えれば、新穂氏は、大東亜戦争勃発の最初の下地を作るための特命を受けた歴史的人物だ。

鹿児島県出身の新穂さんは、祖国日本に妻子を残し、33歳の若さで刑場の露と消えた。現在、その妻子が暮らす横浜からほぼ真南へおよそ4,200km。赤道を越えたニューギニア島に瞑る故新穂智さん。墓所の正確な位置も分からない。よって戦後、遺族が現地を訪れることもなかった。

新穂さんは、裁判の弁論資料として、詳細な行動記録を残していた。計5部作。昭和18(1943)年11月23日に始まり、昭和19(1944)年6月6日までのおよそ半年間の宣撫工作活動記録。単なる日誌に留まらない。それは文化人類学的視点から現地の住民生活を描いた博物誌とも言える内容だ。戦中のことでなければ、きっとニューギニア事情本として今日、書庫に並べられていたであろう探検記録でもある。

飛び込んできた“朗報”とは、新穂智氏の唯一の子息である智忠さんからの電話だった。「母の了解が取れましたのでお知らせします」と。夫が残した計5部の『西部ニューギニア横断記』の全公開を承諾する電話だった。敏子夫人はすでに95の齢。智忠さんは68歳。夫、そして父が残した大作を世に全公開を決意するまでに要した時は61年間。

新穂智氏（画像処理してあります）

新穂智氏の子息、智忠さん（画像処理してあります）

戦後もオランダが西部ニューギニアの実効支配を続け、一方で、ハーグ円卓会談の結果、インドネシア連邦共和国(Republik Indonesia Serikat)が成立した1949年。連邦共和国の成立があと一年早かったのならば、おそらく新穂智さんの処刑は実施されなかった可能性が大だ。しかし、時計の針は戻ることがない。新穂さんは、昭和24(1949)年3月3日、ホーランジアで銃殺刑に処せられた。奇しくも33歳。雛の節句は硝煙で彩られた。

明日から2011年が始まる。インドネシア文化宮(GBI)、そしてメトロTV東京支局は、2011年、新穂智さんの33年間を追及する旅を始める。

『西部ニューギニア横断記』に新穂さんが描いた「ドブイ名物・籐の吊り橋」

【参考ブログ】

太平洋戦争開戦69年。西部ニューギニアに瞑る新穂智少佐が残した手記
https://gbitokyo.seesaa.net/article/201012article_9.html

テーマ「大東亜戦争」のブログ記事
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