ジョグジャの女性画家ニケン・ララサティさんNiken Larasati, Pelukis Yogya

ジョグジャカルタ特別州のスレマン(Sleman)県ガンピン(Gamping)地区に暮らす、女性画家ニケン・ララサティ(Niken Larasati)さん。古都の中心部から車でおよそ30分。市街地が終わり、水田が広がる境に彼女の家はあった。「天気が良ければこの水田の向こう、真正面にムラピ山が見えるんですよ」とニケンさんが指さす先には、噴火の降灰で一度は枯れてしまった水田に、緑の稲穂が伸びている。

2010年10月末、138年ぶりの大噴火。300名以上の人命を奪い、広範囲に被害をもたらしたムラピ山(Gunung Merapi)。その“火の山”を、遮るものなく、毎日眺めているニケンさん。「幸いにも、私の家は降灰以外に、たいした被害を受けませんでしたが、夜、赤く染まる頂上付近を見て、なかなか眠れない日もありました」。

左からShoumi Damayantiさん、ニケンさん、Dina Widhikiranaさん、トゥリさんと娘のShirinちゃん。

ニケンさんと夫でグラフィックデザイナーのエコ・アグス・プリハントロ(Eko Agus Prihantoro)さん。

戸外で演じられる大自然のドラマをよそに、ニケンさんは、大きなキャンバスと対峙、主要テーマである『昔の子供たちの遊び』を描き続けている。いつの日か、国内、そして海外での個展を夢見て。

筆者がニケンさんの家を訪ねた2011年2月17日、そこには25年ぶりの再会という、小学校時代の同級生が集まっていた。まさに、二昔以上も前に「Dolanan Anak（子供の遊び）」を共に楽しんだ幼友達だ。その内の一人は首都ジャカルタから夫と子供と来ていた。「ニケンさんは、小学校の頃から、お絵描きがとって上手だったのよ」とショウミ・ダマヤンティ(Shoumi Damayanti)さん。

さらに、予期せぬ男性も突然加わった。トゥリ・アグス・スサント・シスウォウィハルジョ(Tri Agus Susanto Siswomihardjo)さん。1989年3月、民主化推進の母体として生まれたPIJAR(Pusat Informasi dan Jaringan Aksi untuk Reformasi・改革行動ネットワーク情報センター)の代表を務めた。そして、東ティモール問題の平和的解決を求める連帯組織であるSolidamor（Solidaritas Untuk Penyelesaian Damai Timor Leste = Solidarity for Peace in East Timor・東ティモール問題の平和的解決のための連帯）のメディア担当責任者を務めたこともある民主運動家の草分けだ。

1998年当時のトゥリさん

筆者はスハルト政権崩壊後の1998年8月、PIJAR代表のトゥリさんをインタビューした経験がある。「13年ぶりの再会が、このニケンさんの家とは。ほんとに不思議な縁だ」とトゥリさん。実はトゥリさんの奥さんはニケンさんと小学校時代の同級生。25年ぶりに再会した女性3名の嬌声の中、筆者は13年ぶりに“インドネシア民主活動家の雄”と偶然再会した。

ニケンさん一家。小学生～高校生の3人の子供に恵まれた。

ニケンさんの質素な家は、まさに全体がアトリエ。壁という壁には、大きな作品が掲げられ、まるで美術館。製作途上の作品も幾つか。最後の“入魂”である、顔の表情を描けば完成だ。「その昔、私たちが子供だった頃は、まだまだ友達間に暖かい絆がありました。家が貧しいか豊かなのか、子供たちにとっては全く関係のないことでした。ところがどうでしょう今は。テレビゲームや高価なおもちゃが溢れるのと並行して、子供たちのきずなはどんどん擦り減ってきています。だから、私は、あの昔のメルヘンのような思い出をキャンバスに残したいのです」---ニケンさんは今日も、ムラピ山の噴煙を望みながら、絵筆を握っている。

家の前の水田。天気が良ければムラピ山が真正面に見える。

【参考ブログ】

ニケンさんが描くジャワ島昔の子供の遊び　Dolanan Anak di masa lampau
https://gbitokyo.seesaa.net/article/201103article_4.html

テーマ「インドネシアの絵画」のブログ記事
http://grahabudayaindonesia.at.webry.info/theme/e48ffb0122.html