『アロールの糸・色彩の世界展』(平良美榮子さん記事再録No.2)
サーバーが消えたために、今では見ることができなくなっているが、インドネシア文化宮(GBI)はその昔、『アロール島事典』の名称で同島を訪れた日本人の手記をまとめて掲載していた。その中のお一人、当時桜美林大学教授で服飾と染色の専門家であった平良美榮子さんが、その『アロール島事典』に「インドネシア・アロール島の天然染料による糸染め」と題する一文を寄せていた。以下、その内容(No.2)を再録する。
『アロールの糸・色彩の世界展』 Pameran Warna-Warni Alor(展示会場の光景)
http://youtu.be/tDEIghFAK_E
アロール島の自然色染め糸111種・Benang Warna-Warni Alamiah dari Alor
http://youtu.be/mN4JU2q4pGg
インドネシア・アロール島の天然染料による糸染め(平良美榮子)
また、アロール島のイカットには、藍と黄色で染め重ねた染色例も見られた。
藍に黄色で重ね染めをしたイカット
② クニン(kunin・ウコン)
ウコンをすり潰して、水を加えた中に糸を入れて煮染めをする。ある程度染めてから、コブミカン(Purut)の汁を入れて更に煮込む。火から下ろして冷まし、染液を絞らずに干す。この方法で染めた糸は黄色であるが、石灰を入れて鮮やかなオレンジ色を、またガラガラの葉に加えて緑色を染め分けていた。
クニン(ウコン)染めのバリエーション
③ ムンクドウ(ヤエヤマアオキの根・アカネの一種)
スンバではムンクドウを染めるとき、ロバという植物の樹皮と葉を臼でついて細かくしてから入れ常温で染めていた。アロールではイカットの産地として知られるテルナテ島・ウマプラ村の染め方を見ると、ムンクドウの根皮だけをつぶして熱湯を入れ、混ぜ合わせた中に糸を2日間浸けて染める方法がとられていた。色合いは、スンバより黒味がかった赤になる。
アロール島イカット、右・スンバ島イカットのムンクドウの赤
④ カタパン、ガラガラの葉による緑染め
植物染料で直接緑色を染め出す染材は日本にはないが、アロール島には、二種類もあることがわかった。
a)カタパン(Daun Ketapang)
大木の木の葉で形は大きく(ちなみに、葉のサイズは幅が18cm、長さ28㎝もあった)硬い。その葉を細かく刻みさらに臼で突いてから水を加え、糸を入れて15分くらい煮染めをした後コブミカンの絞り汁を入れる。さらに10分くらい煮て火から下ろし、染液を絞らずに干す。
b)ガラガラ(Garagara)
この植物の染色方法は、冷染で染めるグループと煮染めのグループがあったが、染め上がりは煮染めの方が色が少し濃くまた、冷染より日光堅牢度がよいようである。冷染は、ガラガラの葉を臼に入れてよくすり潰し、水を少し加えた中に糸を入れてすり潰した葉を押し付けながら染める。一方、煮染めの方は石灰とコブミカンの絞り汁を入れて15分くらい染める。
⑤ カユクニン(Kayu Kuning・黄木)
木の根を刻んで火にかける。糸を入れて30分~1時間煮染めをした後取り出して、1回水洗いしてから絞らずに干す。
⑥ スオウ
アロール9郡のうち、西パンタール郡のパンタールバラ(PANTAR BARAT)(アロール島の西隣にあるパンタール島の1つの村)のグループは、ホーン(スオウ?)という心材で、またコナラ村ではウディン(ホーン)で赤を染めていた。木材の中心にあるオレンジの部分を削ってお湯に入れ染液を出して染める。
ホーンで染めた糸(左端)とクニン染めの糸(中央・右端)
3)天然染料で多色に染め分けた糸を生かしたイカット
イカットに用いられる素材は木綿であるが、木綿は一般的に植物染料に染まりにくく、クミリなどで前処理をして染料の吸着をよくしたり、媒染剤の力を借りて初めて染料が繊維に染着、固着して発色する。
藍やウコン、クチナシなど一部の単色性染料を除いて、植物染料(天然染料)の多くは多色性染料であり、そのため媒染に何を用いるかによって、色の出方が変化し独自の色調に染め分けることが可能となる。
1枚のイカットに用いられる色数は比較的少ないが、アロール島には、微妙な色に染め分けた糸を生かして織った多色使いのイカットがある。
4)ブアヤ(BUAYA・ワニ)島のイカット
アロール島イカットの主要な色調の一つである藍染は、インド藍(チンクトリア種)であることがわかったが、モーターボートを飛ばして1時間北に行ったブアヤ島の藍も同じ種類であった。この島には水がなく、隣の島から運んでくるという事情があるが、どんな気候条件でも栽培されるほど藍は重要な染料であることがわかる。
(ブアヤ島のイカットの制作)
(ブアヤ島のイカット)
(ブアヤ島で出迎えてくれた子供たち)
(ブアヤ島の村の様子)
(ブアヤ島のインド藍)
(ブアヤ島の糸括り)
インドネシア文化宮(GBI)とアロール県政府との“島興し”プロジェクトの歴史は下記のようになります。
2002年4月30日~5月2日:第一回アロール県エキスポ(Expo Alor)
2002年7月6日~11月9日:東京で『アロール県伝統イカット展』
2003年4月29日~5月2日:第二回アロール県エキスポ
2003年7月26日~11月28日:東京で『アロール県伝統ソンケット展』
2004年8月2日~8月6日:第三回アロール県エキスポ&フラボモラ大文化祭
2005年8月4日~8月7日:第四回アロール県エキスポ
2006年5月20日~7月22日:東京で『アロール島児童絵画展』
2006年8月3日~8月7日:第五回アロール県エキスポ
2007年8月4日~8月8日:第六回アロール県エキスポ
2008年8月6日~13日 :第七回アロール県エキスポ
第7回アロール県エキスポ画像リポート(1)Expo Alor ke-VII
https://gbitokyo.seesaa.net/article/200808article_1.html
第7回アロール・エキスポ情報(Expo Alor ke-VII)
https://gbitokyo.seesaa.net/article/200807article_2.html
染色原料。左はムンクドゥの皮と根を煮詰めたもの。右はインド藍
紡績糸の浸透に伴って、手紡ぎ糸を上手に作れる人は年々少なくなってきている。
展示会場の光景
【アロールの天然染料の主素材】
自然色を生み出す主な素材は、以下のようなものが報告されているが、近い将来染色方法に関してパテント申請を予定しているとのことで、詳細な“サジ加減”や“添加物”については不明だ。
赤系、茶系の色は:
ムンクドゥ(Akar Mengkudu)の根、生命樹の皮、赤木(ホン)、ラド(Lado)の皮
藍色、ブルー系は:
ニラ(Nila)の葉
緑系、黄緑系は :
ケタパン(Ketapang)の葉やガラガラ(Gala-Gala)の葉
黄色、黄金色は :
ウコン(Kunyit)や柑橘類(Jeruk Purut)
黒色、灰色、紫は:
ニラ(Nila)の葉(複数回の染色)
オリーブグリーン系色は:
クパパ(Kpapa)の皮やパパイヤ(Papaya)の葉
オレンジ系やピンク系は:
ブリンビン(Belimbing)の葉、チェルメレック(Cermelek)の葉や実
深紅や明るいオレンジ系は:
マンレイン(Manleing)の根、野生マンゴ(Mangga Hutan)の皮
【名称】 『アロールの糸・色彩の世界展』 Pameran Warna-Warni Alor
【主催】インドネシア文化宮&東ヌサトゥンガラ州アロール県&じゃかるた新聞
【期間】 2012年7月14日(土)~10月6日(土)11:00-17:45。日曜・祝日は閉館。また以下の土曜日も閉館となります。2012年7月21日、8月4日&11日&15日、9月1日&16日。さらに、激しい風雨を伴う悪天候、さらに取材活動に伴って事前通告無しに、閉めることもありますので、予めご了承お願い致します。
【展示品】 111種の自然色染めの原糸&およそ100点のイカット&ソンケット
【場所】 インドネシア文化宮(GBI) JR高田馬場駅より徒歩約6分。東京富士大学高田記念館正門向かい側のビル1階(添付地図参照)東京都新宿区下落合1-6-8(TEL:03-5331-3310)
【入場】 無料
【備考】 アロール県政府が送ってくる予定の、染色素材も到着次第、展示する予定です。
【インドネシア文化宮への道順】
JR高田馬場駅より徒歩約6分。さかえ通りを進み、神田川の橋を越え、新宿区立図書館方向へ。東京富士大学高田記念館正門の向かい側のビル1F(東京都新宿区下落合1-6-8 TEL:03-5331-3310)
アロール島のアロール・ブサール村で行われた、新たな色の創作光景。
http://www.digibook.net/d/219483ffa018b03d271cb9257b69c436/?viewerMode=fullWindow
【関連ブログ】
アロール関連ブログ
http://grahabudayaindonesia.at.webry.info/theme/c88587e2d0.html
【関連動画】
東ヌサトゥンガラ州アロール島の海 The Sea of Alor Island
http://youtu.be/u00GOBDWVfE
アロールの海 Alor, The Heaven on Earth
http://youtu.be/UShkDYmpQLg
アロール島タクパラ村のレゴレゴダンス2002-2008 Lego-lego Dance Alor Island
http://youtu.be/oAcxbwu1kRQ
NTT州アロール島のレゴレゴ・ダンスの今昔 Lego-Lego Dance of Alor Regency, NTT
http://youtu.be/o5PvQtRPtKs
東ヌサトゥンガラ州アロール県の伝統舞踊レゴレゴ・ダンス
http://youtu.be/HVX0ILqRrQs
東ヌサトゥンガラ州フローレス&アロール島 Promotion Video Flores & Alor Islands
http://youtu.be/M0EZqVYBr2Y
アロール島のカラバヒから州都クーパンへのフライト Dari Kalabahi ke Kupang
http://youtu.be/VWiqSFg3j14
東ヌサトゥンガラ州アロール県のモコ博物館 Musium Moko, Alor, NTT
http://youtu.be/3yuUq-cA_0U
東ヌサトゥンガラ州プロモーションビデオ Promotion Video NTT Province Indonesia
http://youtu.be/GuP7Qg1801g
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