日本の太平洋学会と中国太平洋学会 PSJ & PSC

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先ごろ、横浜で第5回TICAD(アフリカ開発会議)が、日本政府の主導で行われた。五年ごとに開催され、最初は1993年のことだった。もう20年も経っている。この間、常に言われ続けたことだが、それは日本を遥かに上回る勢いでアフリカ進出する中国の動きだった。今回も、マスコミはこぞって日中の対アフリカ“協力競争”を比較し、中国のアフリカにおける強力な存在感を報じた。一方、安倍総理は、日本企業に対して、今こそアフリカへの投資の時と、躊躇する日本企業に発奮を求めた。

しかし、である。冷静に過去を回顧してみよう。筆者は学生時代の一年間をアフリカ東部で過ごした体験を持つが、その当時、日本政府や日本企業は、お付き合い程度のアフリカ関係を持っていたに過ぎない。東南アジア進出に忙しくて、地球の裏側のアフリカのことなどまともに論じていなかった。アフリカはまだ探検や冒険の対象であり、無償援助案件も、どちらかと言えば長期的戦略など持ち合わせていなかった。

当時、エチオピアの首都アジスアベバの安宿で、東部アフリカの一国でコメ作り指導を終えて、帰国の途上にあった青年海外協力隊の男性隊員と飲む機会があった。彼が嘆いて強調した。「たった2年や3年で農業指導なんてできないんですよ。いわんや米作りですよ。水の管理など、僕が不在の時は、誰もやろうとしないのですから。スワヒリ語だって、ようやく覚え始めたのに、もう帰国ですからね」と。

ケースによって是非はあろう。しかし、少なくないケースで、青年海外協力隊の貢献は、上記のような場合が多い気がする。相手国の人々のことよりも、要は派遣する側、派遣される青年側の要素が優先される。そこには、“骨を埋めても”といった志や決意は見当たらない。海外で暮らせて、珍しい国へ行って、珍しい体験をしてくる---そんな個人の欲求を国家が、暫くの間、面倒をみるといった側面が見え隠れする。そして、国家や派遣事業体は、ほらこんなにも我々は協力しているんですよ、と年次報告書に書き込む。

安倍総理が発言した「今でなくていつ投資するんですか」の問いも、裏返せば、アフリカ側の立場に立ってというよリも、日本側の論理で言っているように思える。とは言え、1970年代、中国はこまめに貧しいアフリカ諸国と関係を深めていった。政治イデオロギーが背景にあったにせよ、まだ貧しかった中国自身のその努力は、今別の形で花開いている。

さて、太平洋地域に目を移してみよう。現在のミクロネシ連邦は、今から99年前に、第一次世界大戦の結果、ドイツ領から日本へその統治権が移った。そして“太平洋戦争”。破竹の勢いで日本軍は、南太平洋一帯を占拠した。あちらこちらに神社が建てられ、日本語教育も徹底した。日本と太平洋エリアは、戦争の結果とはいえ1世紀もの長きにわたって関係してきた。

ところが現実はどうか。その昔、“友好国”の数を競って、台湾と中国が太平洋諸国で火花を散らした。互いに無償援助合戦を繰り広げた。勝者は台北ではなく北京になったようだ。今、太平洋のあちらこちらで中国のプレゼンスが際立つ。それは、政庁舎や議会の建物を無償で建ててあげるばかりではなく、放送局さえ立ち上げてあげ、そこに北京から英語放送の豪雨を降り注いでいる。“戦略”を見る思いがする。

アフリカに限らず、太平洋諸国もやがては中国の“赤子”的存在になるのか。そう言えば、北京の「第二列島線」は、今やインドネシア領西部ニューギニア(パプア州&西パプア州)にまで延びようとしている。日本や日本企業にとってリスクがありそうに見えるエリアにどんどんと進出していっている。その先には、もちろん鉱物資源や海産物などがあり、それはそのまま“シーレーン”の形成となる。

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閑話休題。筆者は求められて『太平洋学会(The Pacific Society)』の理事に就任した。1978年9月の創設以来、ずっと不真面目会員として末席にいたが、新年会の講座講師役だけは、ここ十年毎年きちんとこなしてきた。理事を引き受ける動機の一つは、『中国太平洋学会(Pacific Society of China)』の力の入った太平洋エリア関与の姿勢をみたことだ。

まずは、以下の両国のホームページをご覧いただきたい。

太平洋学会
http://www.osaka-gu.ac.jp/php/shimaoka/taihei/

中国太平洋学会
http://www.psc.org.cn/cms/Article/Index.asp

比べようもないほどの日本のひどさだ。情報を発信できていない。日本には「太平洋学会誌」という立派な機関誌があったが、資金的な問題で通巻98号で、三年前から休刊中。一方の中国は、WEBサイトで、中国語オンリーといった状態だが、がんがん情報を発信している。最近では尖閣諸島についての記述が目立つ。

『太平洋学会』の“少子高齢化”も深刻な問題のように筆者には映る。太平洋地域に関心を持つ若者会員がいない。観光旅行ならばすごく関心はあるのだろうが、同地域の研究や知的交流には至っていない。個人会員の年会費1万円はけっして安くはないだろう。いわんや、中国太平洋学会のように背後に国家はいない。まあ、これも最近の太平洋情勢を考えるとき、いかがなものかと思うが、多少の研究費助成があってもおかしくはない。

アフリカと太平洋。日中の100m競争は、すでに50m付近に至っている。


Google Earthの画像に見る尖閣諸島“情報戦” Kepulauan Senkaku
https://gbitokyo.seesaa.net/article/201011article_9.html

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