再録 【安田和彦の沖縄マタハリ物語】 芭蕉布:東南アジアと沖縄を結ぶイカットの道』(99.8.22)
【安田和彦の沖縄マタハリ物語】 『芭蕉布:東南アジアと沖縄を結ぶイカットの道』(1999.8.22)

芭蕉布とは、糸芭蕉から繊維を採り出し、細く裂いた繊維をつないで糸にし、絣くくりをして染色し、高機(たかばた)を使って織り上げていく、という工程を経て生み出される、軽くて風通しが良く、しかも張りがあって丈夫な、高温多湿な沖縄の日常着の素材として最適な、沖縄独特の染織布である。
この芭蕉布は、手に取った時の感触が実に心地よい。始めて触った時には驚きさえ感じた。すべて天然の素材から、すべてが手作業によって生み出された1枚の布は、手触り、肌触りといった触れ合うことによってしか伝わらない感覚の尊さを教えてくれる気がする。
それでは、芭蕉布を手にしながら、芭蕉布から見える世界について考えてみたい。まず、原料となる芭蕉とは、インドから中国南部が原産地といわれる広く東南アジア全域にも分布する植物だが、沖縄には糸芭蕉のほか、実芭蕉と花芭蕉があり、実芭蕉とはいわゆるバナナのことである。
これらの芭蕉が、沖縄に原生のものなのか、南方から移入されたものなのか、移入されたとすればいつ頃なのか等については、いくつかの説がある。また、マニライトバショウ(マニラ麻、アバカ)という糸芭蕉に良く似た種類について、フィリピン原生であり、フィリピンのセブ島等でそれによる布が生産されていた、また、フィリピン、インドネシア(カリマンタン・ジャワ)で栽培されている等のことも言われている。
次に、芭蕉布が生産され始めた年代については、13、14または15世紀と、これも様々に考えられている。この点については、東南アジアにおけるインド文化・中国文化の影響と、その中での織物生産技術の伝播、さらに、東南アジア各地での技術の普及、共有化、多様化の過程とも何か関連する点があるだろうと思う。
そして、絣の技法については、芭蕉布、沖縄の絣全般、さらには本土のものも含めて、インド・インドネシア・沖縄・本土とつながる「イカット・ロード」の存在を認める説もある。
また、芭蕉布を生み出す道具についても、例えば腰機(地機)から高機への移行時期は今世紀初め頃と言われるが、それは東南アジア各地での腰機(地機)から高機への移行時期と重なるのではないだろうか。とすれば、その移行の要因には、沖縄、東南アジアに共通のものがあるのかもしれない。
さらに、芭蕉布に用いられる植物染料は、リュウキュウアイ(琉球藍)、シャリンバイ(車輪梅)、フクギ(福木)、スオウノキ(蘇芳)、ヤエヤマアオキ(茜)等、東南アジア各地でも用いられてきたものが多く、スオウノキはかつて琉球王国が行った東南アジアとの貿易における貴重な交易品であったとされ、また、ヤエヤマアオキはバティックの赤色染料として有名である。
このように、芭蕉布は沖縄からインドネシア、東南アジアへと心を誘ってくれるのだが、残念ながら、現在芭蕉布を取り巻く状況は厳しいと言わざるを得ない。その主な原因は、伝統工芸といわれるものすべてに共通のことなのだろうが、芭蕉布を生み出す人を育てる時間と芭蕉布を生み出すための時間に対する価値観と、私個人としてもそれにどっぷり浸かっている人間としてあえて言うならば、現代的な時間と金額に対する価値観との乖離である。
芭蕉布会館は、芭蕉布の保存、伝承を目的に、主に後継者の育成を行っている。そこで伺ったお話では、糸芭蕉を植えて育てるところから始まる、すべて手作業の工程を身につけるには10年かかるという。そして、熟練した人でも、個人で家の庭に糸芭蕉を植えて育てるところから作業をしていくと、1年で1反だという。
しかし、この芭蕉布が第2次世界大戦、沖縄戦を経て現在も生み出され続けていること自体、ある意味では奇跡である。その経緯については既に様々なところで紹介されているであろうし、ここでは記さないが、奇跡を実現した人たちへの感謝と、あらためて失ってはいけない価値観の大切さを思う。
【参考ブログ】
再録 【安田和彦の沖縄マタハリ物語】 『イノーとスク漁』(1999.7.28)
https://gbitokyo.seesaa.net/article/201306article_30.html
再録 【安田和彦の沖縄マタハリ物語】 『南来流&キジムナー』(1999.6.27)
https://gbitokyo.seesaa.net/article/201306article_29.html
再録 【安田和彦の沖縄マタハリ物語】 『ナゴンチュとピトゥ』(1999.6.5)
https://gbitokyo.seesaa.net/article/201306article_28.html
再録 【安田和彦の沖縄マタハリ物語】 『沖縄・カンビン・インドネシア』(1999.5.25)
https://gbitokyo.seesaa.net/article/201306article_26.html
再録 【安田和彦の沖縄マタハリ物語】 『うちなータイム』(1999.5.14)
https://gbitokyo.seesaa.net/article/201306article_25.html
再録 【安田和彦の沖縄マタハリ物語】 沖縄からインドネシアを考える
https://gbitokyo.seesaa.net/article/201306article_21.html
再録 【安田和彦の沖縄マタハリ物語】 『うりずん』
https://gbitokyo.seesaa.net/article/201306article_23.html
再録 【安田和彦の沖縄マタハリ物語】 マタハーリヌ チンダラカヌシャマヨ
https://gbitokyo.seesaa.net/article/201306article_22.html
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“玉砕の”ビアク島訪問記(By 安田和彦)5 Goa Jepang Pulau Biak Papua
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インドネシア文化宮(GBI)満12歳です HUT GBI ke-12 thn
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https://gbitokyo.seesaa.net/article/200610article_4.html
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