再録『ライラのイリアンジャヤだより』 Surat dari Irja ティオム村物語:出産
【ティオム村物語(2)出産】

『カレンダーなんてないでしょう。だからティオムの女性は、お月様を見て日時を数えるの。二ヶ月か三ヶ月も生理がないと、妻は初めて夫に妊娠したことを告げるの』とデピナ。
生理停止の報告は男たちを奮い立たさせる。直ちに出産に必要なモノの準備に取りかかる。例えば、赤ちゃんを包むためのノッケン(網袋)を作るための素材探し。ノッケン用の特別な植物繊維探しの始まりだ。まず、枝を集めて、皮をむく。細くなったら、それを天日に干して、中から繊維だけを取り出す。
『それを女性が自分のももの上で、糸になるように紡ぐの』。着色も重要な作業だ。Beliは黄色い繊維、Tenは白い繊維のことだ。そしてUwuruwiは腐った木から採った茶色の液で染めた物。編み上げると、糸を強くするために泥の中に浸す。
『その土は中央高地でも、ある一カ所でしか取れないの。だからティオム村では一袋五千ルピアで売ってるくらい』とか。ノッケンは最低でも8-10枚は作っておくそうだ。妊娠していても、女性たちは普段通りに山の畑に出かける。
たとえ出産間近になっても、彼女たちは村から何キロも離れた畑まで歩いて行く。『私の村では、歩いたり飛び跳ねたりすることで、お腹の赤ちゃんがどんどん下りてくるって信じているの。だからお腹が大きくなると、わざと飛び跳ねたりするのヨ』。
陣痛が始まり、いよいよとなると、妊婦は女性用のホナイ(円形住居)へ入り、服を全て脱ぐ。たとえ夫でも、そこへ入ることは許されない。両膝をつき、腰を少し上げた状態で座り、赤ちゃんが早く生まれるように、自分のお腹を押したり、他人(女性)に頼んで、背中に乗ってもらったり、あるいは身体をゆすってもらう。
オギャア! 赤ちゃんが生まれると、まず水で洗ってあげ、柔らかい葉で包み、さらにノッケンをかけて寒さを防ぐ。女性はナプキンの代わりに、床に敷かれたDoringgaという葉っぱの上で、出血が止まるまでおよそ一週間休養する。一週間後、赤ちゃんはノッケンに入れられた状態で、畑でも川でも、どこにでも連れていかれる。
ノッケンはそのヒモを額に掛けて、背中側にまわす。赤ちゃんはお母さんの背中に背負われている状態だ。子供を入れるノッケンは二重構造で、内側のノッケンは柔らかい草が敷かれ、外側のノッケンには腐らない、ある種の乾いた葉が入れてある。『赤ちゃんがおっしこをしたり、ウンチをした場合はOwagannonggaという名の草で拭いてあげるの。でもね身体を洗ったりはしないのよ』とデピナが説明。
で、夫は何をしているのかというと、出産で苦しんだ妻のために、豚を殺し、妻に栄養を摂らせてあげるそうだ。ダニ族の男は超優しい!『で、その豚を調理している間に、夫は子供の名前を考えなくてはならないの』。
赤ちゃんが三ヶ月くらいまで、ノッケンから出すことはダメなんだそうだ。おっぱいをあげるときでさえ、赤ちゃんは網袋に入れられたままだ。ノッケンは揺りかご、ノッケンは母。ダニ族にとって、ノッケンは生命の出発点だ。
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