再録『ライラのイリアンジャヤだより』 Surat dari Irja【テンバガプラ・リポート】(2)

ティミカ市内を一日見学し、翌朝はいよいよフリーポート社の銅鉱山と工場へと案内してもらえることになった。案内してくれるのは同社のCommunity Affairs部門で働く、アンボン出身のヤピー(Yappy Uneputty)さん。30歳、独身。英語が堪能ということでフリーポート社に採用されて数年だが、今では専用のコンピューターも持ち、同社で働いているインドネシア人の中ではかなりのエリートだ。

朝八時、ヤピーさんがティミカ市内のフリーポート社宅まで迎えに来てくれた。前夜はそこで一宿一飯のお世話になった。朝御飯にシリアルを食べ、上着をたくさん着込んで出発。同社の銅精錬工場は高い山岳地帯に位置しているため、冷え込むそうだ。ヤピーさんが乗ってきたのはトヨタの白いランドクルーザー。
銅山への道は、急峻な山道で、舗装もされていない。このため、四輪駆動以外の車の通行は許されていない。車体に大きく登録番号が書いてあり、関係者以外の車の立ち入りは厳しく管理されているようだ。
市内より車を15分ほど走らせると、もう周りに建物は見えない。幅の広い砂利道が続く。道の左右に熱帯雨林が茂っていたかと思うと、ある地点から木々はまばらになり、枯れ木が目立つようになる。これが上空から見た灰色一色の部分か。横を通り過ぎるのは白いランドクルーザーかまたは巨大なトラックのみ。ところどころに道路整備車も止まっていて、作業中のイリアン人たちが車が通るたびに手を振る。
1時間ほど山道を登ると風が冷たい。休憩のために作られたと思われる駐車場で下りてみると、崖の真下、手の届きそうなところに雲が広がっている。そこには高さ2メートルほどの大きな岩製の碑が建てられているが、その岩の表面は金色にぴかぴかと光っている。周辺を見回すと、地表面に落ちている小石もぴかぴか光っている。もしやこれは金?と思い拾い集めていると、ヤピーさんが『そんなものなら、この上に行けばいくらでもあるよ』、と笑った。
やがて急坂が始まり、車は霧の中を走っていた。周りは真っ白。ほとんど何も見えない。霧が晴れるのを待ちながらゆっくりと進んで行く。午後になればなるほど霧は濃くなるそうだ。霧が晴れると、目の前に山頂に雪を残した、オセアニア最高峰のジャヤ山が見えた。
もうすぐフリーポート工場群に着くというところに検問所があった。フリーポートの社員以外が入るためには許可が必要となる。そのためヤピーさんは昨日のうちから人数分の許可を取っておいてくれていたようだ。許可証を検問所の係官へ提出すると、乗車人数のチェックを始めた。
まるで軍事施設に入るかのような厳しいチェックだ。なにやら何時間かの間だけ入っても良いとの許可を受け、そこは無事に通過。『君のことは、外国人じゃなく、友人のチェンドラワシ大学の学生として書いておいたから』と、ヤピーさん。やっぱり外国人には規制が厳しいのだろうか。
少し行くと眼下の谷間に町が広がっていた。ここには工場で働くインドネシア人のための寮や、その家族のための学校、モスク、教会、町役場、郵便局などが、小さいながらも一通り揃っている。ここもフリーポート用に開発され人工の町だ。きちんと整備され、小ぎれいだ。そこからさらに一山こえると、大工場が現れた。
最初に職員の装備を整えるための装備室へと案内された。安全のために着用しなければいけない品々が、図解入りで大きく説明してある。長袖、長ズボン、ヘルメット、安全靴、そしてゴーグルをつけまた車へ乗る。工場はいくつもの棟から構成されているため、移動には車を使う。ここからは工場内部を直接取り仕切っているブディさんが案内として同行した。
工場群の全景が見渡せる高台へと登ると、そこには例の金色の石が集積してあり、辺り一面がぴかぴか。銅山発掘現場へと続くロープウェイ発着所に近いためか、大勢の作業員が分厚いグローブをはめたり、体に非常用ロープを巻きつけている。下にはいくつもの精錬工場、山から降ろされた銅や金を含んだ岩石の山、そして倉庫などが一望できる。銅採掘現場まで上りたかったのだが、その日は風が少し強く、ロープウェイに乗るのは危険だとのことで、断念せざるを得なかった。
ブディさんの後をついて、主要な精錬工場内を見学した。ミルは建設中のものもあり、どれも巨大だ。最初に入ったミル内には大きな筒状の機械がいくつかあり、大きな音を立てて、ぐるぐると回っている。DANGERと書かれた札があちこちに掛かっている。しかし工場内には作業員が1-2人しかいない。次のミルは、銅や金を含んだ泥土が精錬されていく過程が手に取るように分かる 構造になっていた。
どろどろの土がこね回され、先に進んでいく。その土も金色の金属が多量に混じっていて、キラキラ輝いている。装置から装置へと移る間に、精錬は精度を増す。作業員の姿はほとんど見あたらない。通用路の脇にガラス張りのコンピューター制御室があり、そこで集中管理されているそうだ。
外へでて次のミルへ。今度は屋根がない。鉄の階段を上っていくと、脇でドドツーと音をたてながら水が滝のように流れ落ちていく。一番上までのぼると丸い直径20メートルもありそうな大きな水溜のようなものが二つあり、その間に作業用の橋が架かっている。その水はきっと銅をふくんでいるのか、青緑色をしている。
そして最後に入った建物は、本当は部外者立入禁止なのだが、ヤピーさんが用を足すついでにちょっと入れてもらった。そこは部屋がいくつにも細かく分かれ、書類が無造作に置いてある。さらに別の部屋には砂のような物が紙袋に入って分別されていた。そばには鉄板があり、それは不純物を取り除く装置らしいらしい。熱く熱した鉄板の上に砂状のものを置くのだそうだ。小さな紙袋に入れられたその灰色の細かい砂は、ものすごい価値があると、ブデイさんが言う。
以前盗まれたこともあつたそうだ。しかし、それがなんの物質なのかは明らかにしてくれなかった。こうして工場を一通り見てまわったが、意外なことに白人の姿はあまりみかけなかった。フリーポート社はアメリカ系巨大企業。彼らはどこで働いているのだろう。そろそろお昼なので社員食堂のあるオフィス棟へと向かった。






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