再録『ライラのイリアンジャヤだより』 Surat dari Irja ピナンとシリ

ピナンとシリ
州都ジャヤプラの町を歩いていると、道路のところどころに赤い血のようなものが吐き捨ててあるのに気が付く。よくよく観察すると、口を真っ赤にしてくちゃくちゃ何かを噛んでいる人がたくさんいる。そして時々所構わず、その赤いものをぺっと吐き出し、またくちゃくちゃ。これは一体何なんだろうか。
ピナン＆シリ売りのルンビアンおばさん。

夕方市場へ行くと、小さな青い実と細長い棒状のモノをセットにしたものがあちこちで売られている。それを売っているのは皆一様に唇を真赤に染めたイリアン人のおばあさん。唇が２倍、３倍の大きさにも見える。持ち寄った台の上に、その実をきれいに並べている。

３センチぐらいの青い実がピナン（Pinang＝びんろうじゅの実）、棒状の植物がシリ（Sirih＝かみたばこの一種）。イリアン人の嗜好品のひとつである。食べ方は、まず実の皮の青い外側だけを歯をつかい取り去る。そしてそれを口に入れかみ砕く。次いで、シリの先に白い石灰の粉をつけ、その部分も口に入れる。と、不思議！どういう科学反応かは分からないが、こうして石灰をつけてはまた噛んでいくと、口のなかは真っ赤になっていく。ピナンの実の中は固い繊維状のものなので、そのうちどんどんほぐれていき、最後にはその繊維だけが残る。

ものは試しと、私も食べてみた。見た目とは違って、その実はものすごく固く、しかも中の液体がとても苦い。また石灰の粉を口に入れるのは少し抵抗があり、最初はすぐに全部吐き出してしまった。でも、興味本位で何度か試していてるうち、何となくおいしい感じがしてくる。口が赤くなっていくのもおもしろく、石灰を多量に付けてみたりもした。これは病み付きになるかもしれない。

何となく健康に悪そうだが、彼らにいわせると、この赤い液体を飲むと体にいい効用がたくさんあるらしい。まず歯が強くなる。これは分かる気がする。歯磨き代わりにもなるかも。そしてなぜか肺の病気にかかりにくくなるそうだ。さらにピナンは女性の体にいいらしく、これを日常的に食べていると、体内がきれいになるそうだ。おりものなどがなくなるとい話もよく聞くが本当かどうかはわからない。

市場で毎日ピナンを売る未亡人女性に話しを聞いてみた。ルンビアさん５０才。イリアンジャヤの中央部の北に浮かぶビアク島出身。二年前に夫を亡くし、大学生の息子と二人暮らし。学費を稼ぐため、毎日知人からピナンを仕入れて、それを市場に並べる。ピナン７個にシリ、石灰のセットで２０００ルピア。一日の売り上げは、多くて５００００ルピアとか。

一年前までは、同じセットを１０００ルピアで売っていたが、この経済危機でピナンの値段も二倍に。生活はどうかと聞くと、「ぎりぎりいっぱいの収入で苦しいが、イリアン人はピナンが好きで客は減ることもなくなんとかやっていけるよ」と。

今日もジャヤプラの市場、そしてメインストリートであるヤニ通りは、赤く染まっている。

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