再録:10年前のジャカルタ北朝鮮レストラン(1)

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北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長の異母兄、金正男氏殺害を巡って、「インドネシア」の文字がメディアに溢れている。実行犯の一人として逮捕された「インドネシア」国籍の女性。そして、北朝鮮の情報機関の活動拠点としての「インドネシア」。10年前(2007年9月20日付)、当ブログは、首都ジャカルタにある北朝鮮レストランを取材した。現在の北朝鮮レストランとは場所が異なっているが、当時の様子を再録してみたい。

事前の案内無しに、突如始まった歌謡ショー。客席からは歓声が

ますます増大する貧富の格差や、紫煙にまみれた交通渋滞など“Tidak Apa-apa(どうってことない)”の勢いで、急拡大を遂げる首都ジャカルタ。その“繁栄”の一角が、北東部に位置するクラパ・ガディン(Kelapa Gading=象牙椰子の意味)地区。この地に、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)が直営する朝鮮中華料理カラオケレストランがある。

国家機関が直接の経営母体なのか、それとも民間のベールを用いているのかは分からない。分かっていることは、PT.Chilbosan(チルボサン株式会社・略称CBS)という名称の株式法人が運営しているということだ。チルボサンとは、おそらく北朝鮮東岸の咸鏡北(ハムギョンブク)道の、清津(チョンジン)市の南方にある景勝地として知られる七宝山(Chilbosan:칠보산 七寶山)に由来するものと思われる。

伝説によれば、かつては七つの連なる頂を有した山だったが、その内六峰が海底に沈み、現在のように一峰だけの山容になったという。七宝山は松茸の産地としても知られる。それ故か、このレストランでは、松茸入りの焼酎が置いてある。ちなみにボサン(bosan)はインドネシア語で“飽きる”、“嫌になる”、“つまらない”などを意味する。従って、インドネシア人の耳には、ちょっと笑ってしまう名称だ。が、現実には、これらのインドネシア語の意味合いとは程遠く、“飽きもせず”せっせと通う韓国人でお店はいつも大賑わいだ。

産経新聞(Sankei WEB 2007/05/08)が、韓国紙「朝鮮日報」(電子版)を引用した報道によれば、東南アジアで展開される北朝鮮国営レストランの所有者は、東南アジアで貿易業に携わっている北朝鮮の「大成総局」の現地法人とみられ、大成総局は金正日総書記の秘密資金を管理している「労働党39号室」傘下の組織だという。

いわゆる北朝鮮の“海外における合法的外貨獲得・経済活動”の一環としてオープンしたものだ。同種のレストランは、中国国内やカンボジア、ラオス、ベトナム、そしてタイ国内にも存在している。チルボサン・レストランは、周囲に新築の中高層ビルが立ち並ぶ、西ブレヴァート通りに面したビルの一階と二階を占めている。華やかな看板は設置していないが、玄関の木製ドアは、どことなく高級クラブの入り口に似ている。

金日成バッジを左胸に着けた美女が六名。その他インドネシア人スタッフが十数名。厨房を仕切っているコックが北朝鮮人か、それとも別の国籍の者かは不明。店内は明るい。天井に、プラスチック製のツタ風の装飾が取り付けられている。こういった装飾方法は、中国やインドネシアでも特に目新しいものではない。一階には六人席の椅子テーブルが八個。二階には座る形態の個室もある。

メニューは一部日本語表記もあるが、多くは朝鮮語の名称をそのままカタカナやひらがな表記したもので、朝鮮料理に詳しくない者には解読困難だ。しかし、焼肉をメインに、平壌冷麺、平壌水餃子などの朝鮮料理、そして中華料理のメニューも豊富。オーストラリ産の大型のカニさえある。さらに犬鍋もある。しかし、北朝鮮特産品を用いたメニューは、そのほとんどが品切れ状況。

「ごめんなさい!それないの。人気で直ぐに売り切れになっちゃうの」と、美女服務員の一人クオンさんが流暢なインドネシア語で応える。一方、北朝鮮産アルコールならば、まだまだ在庫はあるようだ。「ちょっと待っててね。二階から持ってきますから」と。注文したアルコール度30%の、松茸入りと朝鮮人参入りのボトルはそれぞれ22万ルピア(約\2,750#)。「このお酒はどれだけ飲んでも、頭が痛くなったりしない、とても高級なお酒なんです」との説明。つまり、飲めば頭痛をもたらす安い焼酎が、あのお国にはたくさんあるということか。

今時、韓国ソウルの繁華街などではもはや見られなくなった、極めて素朴な笑顔を振りまきながら、客席の間をまさに甲斐甲斐しく移動する、清楚な色彩のチマチョゴリ姿の美女たち。メイン客である韓国人の青年やおじ様たちは、満面の笑みで彼女たちの接待を楽しんでいる。携帯電話のカメラを彼女たちに向け、シャッターを押しまくる。そして画像を再生して見せてあげながら、何事か女性の耳元に囁く。

電話番号や連絡先を尋ねているのか。だが、期待する回答を得ることは確実にない。彼女たちは、ジャカルタの北朝鮮大使館内の敷地に居住していると言われている。間違っても、連絡先を教えることはないはずだ。仮に教えることがあれば、エージェント獲得の意図が見え隠れすると考えても間違いはない。軽快な革命歌謡曲や流行歌がシンセサイザーとギター演奏で歌われる中、“南北”の駆け引きが店内に漂っているように思うのは筆者だけか。


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マングローブ蟹が豊富なインドネシアなのにも関わらず、お薦めメニューには「オーストラリア産大型蟹」

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ショーの合間には、北朝鮮製の戦争アニメが上映された

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エレキギターとシンセサイザー。そしてハイテク音響機器。清楚な伝統衣装とのギャップが魅力か

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クオン・ジン・ヒエンさん(22歳)。「ジャカルタに来てからまだ一年。インドネシア語はまだまだです」と。一方、中国語や日本語も相当こなす。やはりエリートか。

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朝鮮人参入りの焼酎。30度。飲み易い。価格はRp.220,000#。

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七宝山産の松茸か?これも飲み易い。価格はRp.220,000#。

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支払額に応じてバウチャー券をもらえる。これはRp.50,000#券(約¥625#)。次回の割引となる。経営手法は“資本主義”。

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支払いレシート。3人でRp.1,570,000#(約\19,650#)。焼酎ボトル2本、豪州産蟹、水餃子、焼肉(牛&豚)、等等。安くはない。

【参考ブログ】

ジャカルタの北朝鮮レストラン(1) Restoran Koruta di Jakarta
https://gbitokyo.seesaa.net/article/200709article_6.html

ジャカルタの北朝鮮レストラン(2) Restoran Koruta di Jakarta(2)
https://gbitokyo.seesaa.net/article/200709article_7.html

韓国&インドネシア
https://gbitokyo.seesaa.net/article/200611article_6.html

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