再録：西部ニューギニア・ロンベバイ湖ヤピナ島に瞑る日高岩男少佐(8) 2017年1月27日: インドネシア文化宮(GBI-Tokyo)

2019年07月14日

再録：西部ニューギニア・ロンベバイ湖ヤピナ島に瞑る日高岩男少佐(8) 2017年1月27日

昭和18(1943)年11月6日、下関を発った日高岩男大尉は、翌昭和19(1944)年1月7～8日頃マノクワリに到着した。第二軍司令部（勢16400部隊）の情報班付の下士官らが、前年の12月8日、開戦二周年の日に到着しているので、ちょうど一ヵ月遅れの上陸だ。日高は第19軍司令部が置かれたアンボンに11月20日頃到着している。すなわち記述の通り、アンボンで第二方面軍（阿南惟幾大将）の兵団長会議に関与し、さらに第19軍から西部ニューギニア情報を収集していたものと推察される。というのも、第二軍（豊嶋房太郎中将）がマノクワリへ進出する以前、西部ニューギニアの西部、南西部一帯には、第19軍（冨永信政中将→北野憲造中将）隷下の第5師団（山本務中将）の部隊が展開していた。
サルミの戦没日本人の碑

例えば、広瀬義武中尉（中野学校乙II長期生）は、第19軍司令部付けだった時代、未だ第二軍が上陸する以前、昭和18年7月頃、西部ニューギニア各地を探検・踏査し、特にマンベラーモ川流域に関する情報は、第二軍司令部情報班に多大な基礎資料を提供した。広瀬大尉（当時）は、翌昭和19年1月中旬、マノクワリに上陸し、第36師団に配属され、2月上旬にサルミに至り、第36師団司令部情報主任の花見参謀の指示を受け、サルミ・ホランジア（現ジャヤプラ）間の情報収集並びに宣撫工作にあたった。昭和19年6月中旬、連合軍のホランジア上陸（4月22日）に伴い、拠点のゴアイを捨て、サルミに向けて転進途上、竜工作隊（竜機関）の隊長である内山守衛大尉（中野学校乙II短期生）が偶然、広瀬大尉と出会い、サルミへの転進を勧めたが、これに従わず、マンベラーモ川上流部へ向かったとされる。広瀬大尉の消息は、戦後になっても不明のままとなった。

西部ニューギニア・ロンベバイ湖ヤピナ島に瞑る日高岩男少佐(1)

https://youtu.be/qzaMsL7TRpg

日高大尉指揮下の「鰐工作隊（鰐機関・鰐部隊）」は、昭和19(1944)年2月5日、二隻の漁船で、第36師団司令部が置かれたサルミを発った。鰐工作隊は、その別名を「ハッヘマ工作班」といい、元々は、マンベラーモ川を遡上し、中央山岳地帯にあるハッヘマ湖（注：ハベマ湖。Habema Lake。現在の中央高地の中心都市であるワメナの西方約30kmに位置する）に進出し、高地民族を宣撫工作し、日本軍への協力体制の構築だった。中野校友会発刊の『陸軍中野学校』によれば、この機関には、林達次憲兵中尉、小泉雅少尉（英語通訳。青山学院大学出身で陸軍予備士官学校卒）、徳野明曹長（中野学校丙2期生）、伊藤政彦嘱託（民族学者・奉任官待遇）、下士官1名、インドネシア人軍警3名がいた。さらに警備部隊として、歩兵第223連隊第11中隊（中隊長吉田正四郎大尉の二コ小隊）、藤田忠輝軍医中尉、衛生兵3名も付いた。

一方、鰐工作隊の徳野明元曹長が著した『鰐部隊とパプア人マンドル』（昭和45年8月15日、今日の話題社発行）によれば、第二軍司令部が置かれたマノクワリからサルミへの旅立ちは、以下のように記述されている。「隊付としてアンボンから派遣された伊藤嘱託（奉任官・千葉）、軍司令部から小泉少尉（山梨）、野戦憲兵隊から林中尉（岡山）、石丸軍曹（佐賀）が配属された。日高隊長以下6名の鰐工作隊基幹要員は、二月上旬、マノクワリ海岸に用意された5屯ぐらいの漁船に乗り移った。第二軍司令部、了戒情報参謀はじめ心のこもった見送りをうけて、われわれは第三十六師団司令部のあるサルミに向った」。

さらに、サルミからマンベラーモ川に向かう描写は次のように記述されている。「警備隊として、吉野部隊第11中隊吉田大尉の指揮する歩兵一箇中隊（一小隊欠）、師団通信隊より一個分隊、軍医藤田中尉（注：藤田忠輝軍医中尉）以下衛生兵三名が配属になった。また、苦力要員として、海岸地区のパプア人六〇名が加わり、工作隊としては、最大の部隊が編成された。かくして二月中旬、サルミの波止場より、二隻の漁船に分乗して勇躍壮途についた。雪兵団の左翼陣営から奥地一帯の原住民工作をすすめ、さらに、標高二〇〇〇メートルから四〇〇〇メートルの中央高原にあるハッヘマ湖付近に進出、拠点を設けて、高地人矮小民族数万を指揮するという膨大な計画であった」。