再録：西部ニューギニア・ロンベバイ湖ヤピナ島に瞑る日高岩男少佐(11) 2017年1月30日: インドネシア文化宮(GBI-Tokyo)

2019年07月17日

再録：西部ニューギニア・ロンベバイ湖ヤピナ島に瞑る日高岩男少佐(11) 2017年1月30日

日高少佐が描いたマンベラーモ河流域の行動地図にも、昭和19(1944)年6月22日まで合流点にいたことが記されている。工作隊は四隻のカヌーで、6月23日午前一時、合流点を発った。以降、バタビア瀑布、エデー（エディ）瀑布、マリネ瀑布を突破して、7月3日、ロンベバイ湖西方に位置する小高い丘の八〇高地に到着した。ちなみに日高が描いた地図では、ここを四〇高地と記している。徳野が著書で書いた八〇高地が正しいのか、それとも日高の四〇高地か、今となっては真実を知る由もない。グーグルアースの衛星地図で見る限り、この付近の丘の海抜はおおよそ40～100メートル。どちらの数値も間違ってはいない。当時米軍が作成した1/50万の地図で見ても、この一帯の標高は、39フィート(約40m)～328フィート(約100m)の丘陵地帯となっている。

バタビア瀑布付近上空からマンベラーモ川と二つの支流、そして中央高地方面を見る（Google Earth衛星画像より)

日高少佐が描いた、もう一枚のスケッチ画（上）には番号が振られていない。理由は分からない。しかし、少佐が手書きした、マンベラーモ川流域作戦行動地図（注：二枚のスケッチ画よりも大きな、サイズ32.5 X 24cmのわら半紙）には、バタビア瀑布の場所に「図No.2」と書かれている。同地点から南側を望めば、やがてマンベラーモ川と名称を変える二つの蛇行する大河、すなわち東から西へ向かうイーデンブルグ川、そして西から東へ進むローハール川が生み出した、オランダ語で「Meervlakte」と呼称された、湖沼平原すなわち広大な湿地帯が見えるはずだ。そしてはるか遠方には、鰐工作隊が白雪山脈と呼んだ中央高地の山並みも。

マンベラーモ川流域作戦行動図

この番号なしの鉛筆スケッチ画は、まさに「図No.2」と記された、バタビア瀑布付近の高台から臨んだ光景そのものと考えられる。左端に、鉄木と思われる大木が一本。大きな蛇行の向こうには、左右に分かれる支流がうっすらと描かれている。川は、青色鉛筆で彩色されている。そして、幾重にも続く白雪山脈。この付近の光景を、著書『鰐部隊とパプア人マンドル』の中で、徳野曹長は次のように描写している。

マンベラーモ河の三大瀑布位置

バタビア瀑布（衛星画像）

エディ瀑布（衛星画像）

マリネ瀑布（衛星画像）

西部ニューギニア・ロンベバイ湖ヤピナ島に瞑る日高岩男少佐(1)

https://youtu.be/qzaMsL7TRpg

「見えた、見えたぞ。遂に待望の奥地大平原が。一望千里、雄大な奥地の大自然だ。（中略）シーンと静かに眠りつづける神秘な平原。広い帯のごとく、緩やかに流れるマンベラモ大河。遠くかすかに望むナッソー山脈の雄大なる連峰。全貌はつかめた。しかし敵はいずこにありや」

不可解な山の絵

ただ、このスケッチ画には、何を示すのか不可解な絵が白雪山脈の上空に描かれている。バタビア瀑布付近もしくはもっと南の合流点附近から臨んだ中央高地の特定の山を描いたものなのか。仮にそうだとすると、おそらく双眼鏡などで見えた光景なのかもしれない。頂には、黒い月形とL字型の印。グーグルアースの衛星画像で、マンベラーモの支流ローハール川の上流部の南側に位置する、ニューギニア島・オセアニアの最高峰であるプンチャック・ジャヤ（ジャヤ峰）を、バタビア瀑布付近から臨んだ場合の画像を創出してみると、日高が描いたこの謎の山の形が、それに似ていないこともない。

バタビア瀑布付近よりニューギニア島最高峰のジャヤ峰(4884m)を望む（Google Earth衛星画像より)

深読みしすぎるかもしれないが、この絵をロンベバイ湖東北端のヤピナ島付近を描いたものとも想像することができる。黒い三日月がヤピナ島で、その右のL字型は、鰐工作隊の徳野明元曹長が作図した「ヤピナ島攻撃略図(1944.7.31日)」にある、ヤピナ島近くの「倒木拠点」かもしれない。「現在地を出発、一挙に攻撃を敢行、夜明けまでに必ずこの倒木の拠点に集合すべし。合言葉は“山と川”各舟艇長は部下に徹底させよ、次に上陸地点を示す。右から小泉、目標椰子林の左、その左に並行して杉沢、以上の二隻は敵の側面攻撃、正面攻撃は日高少佐が当る。その左に徳野。敵陣に接近するまでは。一列縦隊で進む。その後後方のカヌーは逐次前進し、一斉に上陸する」---昭和19(1944)年7月31日、午前一時、ヤピナ島の連合軍水艇基地を奇襲攻撃する直前の描写だ（徳野明著『鰐部隊とパプア人マンドル』）。