再録：西部ニューギニア・ロンベバイ湖ヤピナ島に瞑る日高岩男少佐(4) 2017年1月23日: インドネシア文化宮(GBI-Tokyo)

2019年07月10日

再録：西部ニューギニア・ロンベバイ湖ヤピナ島に瞑る日高岩男少佐(4) 2017年1月23日

高橋ミチエは、大正9(1920)年5月20日、宮崎県の南端、鹿児島県との県境に近い、現在の日南市南郷町榎原（よわら）で、父・正次（昭和32年11月、65歳で没）と母・ミヨ（昭和53年4月、83歳で没）の長女として生を受けた。ミチの実家は、天照大神を祭神に仰ぐ、縁結びや安産祈願、家内安全などにご神徳があるとされる榎原神社のすぐ近くにあった。一方、現在の日南市飫肥生まれの日高岩男の誕生日は、大正6(1917)年1月8日。歳の差、三歳。陸軍士官学校卒で大尉の岩男が、上海から帰国した昭和16(1941)年2～3月頃、岩男は24歳、そしてミチエは21歳。当時の平均初婚年齢から見れば、両人ともかなりの“幼夫婦”。親族によれば、見合いで初めて知り合ったとのことだが、二人とも即座に婚姻を決めたそうだ。
日高岩男大尉と妻のミチエ。陸軍中野学校教官時代の写真と思われる

西部ニューギニア・ロンベバイ湖ヤピナ島に瞑る日高岩男少佐(1)

https://youtu.be/qzaMsL7TRpg

榎原神社で結婚式を挙げた背景は、日高家の信仰が神道だったことと無縁ではあるまい。結婚後、お寺の庫裡で新婚生活をスタートさせた二人は、まもなく東京へ向かって宮崎を離れた。陸軍中野学校を卒業（2甲期生・昭和16年2月入校、同年6月卒業）し、昭和17(1942)年5月～昭和18(1943)年6月期には、同校の実験隊で第二班長として教官の立場にあった日高大尉（当時）。おそらく、この教官時代に二人は東京の中野学校敷地内もしくは近辺の官舎で暮らしていたのだろう。岩男が中野学校を卒業して半年後、太平洋戦争（大東亜戦争）が勃発。そしてさらに半年後の昭和17年6月11日、岩男の実父・日高平八が51歳の若さで他界している。

昭和17(1942)年。この年、日本軍は戦域を急拡大していった。1月、ラバウル上陸、2月、シンガポール陥落、3月、ジャワ島上陸、そしてニューギニア島上陸、またマッカーサーはフィリピンから豪州へ脱出。しかし、4月には山本五十六連合艦隊司令長官がブーゲンビル島上空で戦死。8月に入ると、連合軍がガダルカナル島に上陸。東部ニューギニアではポートモレスビー作戦が展開し、日本軍の玉砕戦も各地で起きた。この年の大晦日には大本営がガダルカナル島からの撤退を決定している。

後列右よりミチエの実父の高橋正次、左は日高岩男の実母の日高トナ、前列左より日高岩男、日高正代（岩男の末妹）、そして岩男の妻・ミチエと抱きかかえる長男の武臣。昭和18(1943)年11月、日高大尉の西部ニューギニア出征前に撮影されたものと思われる

南太平洋地域で日本軍後退の兆しが鮮明になった昭和17年12月。日高岩男・ミチエ夫妻は長男の武臣（たけおみ）を授かった。12月25日、金曜日。翌日には東条英機内閣総理大臣の下、第81回帝国議会が召集されている。武臣は東京市杉並区で出生、翌年の昭和18年1月6日、父である日高岩男自身によって出生届が出され、1月12日、東京市中野区長から送付入籍とされる。

しかし、戦争は仲睦ましい若夫婦家族を否応なしに引き裂いていく。昭和18(1943)年11月、武臣が満一歳まであとわずか一ヵ月、日高大尉は祖国を離れ、西部ニューギニア戦線へ旅立った。