再録：西部ニューギニア・ロンベバイ湖ヤピナ島に瞑る日高岩男少佐(50): インドネシア文化宮(GBI-Tokyo)

2017年03月10日

再録：西部ニューギニア・ロンベバイ湖ヤピナ島に瞑る日高岩男少佐(50)

私のそばで倒れた村瀬兵長の遺体がない。倒れたところから湖水に向って葦も草も、全部なぎ倒されている。不思議だ。かりに村瀬が這って行ったとしても、こんな大きな道はつくるわけがない。四人は草の倒れている先を見つめながらこの跡を追った。鰐だ、大鰐の仕業だ。砂浜に着いたわれわれはここで大鰐の足跡を発見した。鰐は村瀬の死体をくわえ、水際まで引きずり出して、ここで食いつくしたのだ。散乱している砂浜から想定してまちがいない。それにしてもなにか遺品が残っているはずだ。

マンベラーモ流域やロンベバイ湖に生息する河口鰐（Crocodylus porosus）

「曹長殿、ありました」一人の兵隊が水際から、村瀬の顎の骨を拾い上げた。よく食い尽くしたもんだ。四人はかたずをのんでこの骨を見つめた。

「あッ、あそこに何か浮いている」引き上げられたのは、村瀬の両足と臀部だった。遺品としてこの顎の骨をおさめた。両足と臀部は穴を掘って埋葬した。

（中略）
村瀬の埋葬を終えた四人は、あごの骨を日高少佐の小指と同じように、手拭にまきこんで、これは佐藤上等兵が首に巻いた。（中略）残る遺体は小泉少尉と杉沢軍曹と通信隊の兵の三人である。われわれ四人は次の捜索に移った。カヌーを曳行しながら岸沿いの捜索であった。杉沢軍曹の死体はすぐ発見された。日高隊長と同じような状態だった。彼は腹部に無数の機銃弾を受けていた。杉沢軍曹のは毛髪を切って遺品とした。杉沢軍曹をその場に埋葬して、やはり日高少佐、村瀬兵長と同じく墓標を立て、黙禱のうえ、次の捜索に移った。残るは小泉少尉と通信兵のみである。われわれは昨日水挺の着水した近くの岸までさがしていった。なかなか小泉少尉の遺体は発見することができなかった。岸近くの水中まで探した。

（中略）
敵機が去ると、われわれもまた捜索をつづけた。しかし小泉少尉の死体はもちろん、何の遺品も痕跡も見出すことができなかった。通信隊の兵も同じく手がかりがなかった。小泉少尉の転落したという湖岸に再びもどって大きな声で呼んでみた。「コイズミショーイ」「コイズミショーイ」兵たちは代り合って力一ぱい呼んでみたが、はるか遠い湖岸のジャングルからこだまがかえってくるのみであった。われわれはこれ以上の捜索を打ちきって帰還の途についた。
（徳野明著『鰐部隊とパプア人マンドル』から抜粋）

西部ニューギニア・ロンベバイ湖ヤピナ島に瞑る日高岩男少佐(1)

https://youtu.be/qzaMsL7TRpg

昭和19(1944)年11月25日、モロタイ島で日本軍機の攻撃に遭って破壊された米軍飛行艇PBYのOA-10A型機のシリアル番号「44-33875」機。機種に75の番号が。整備兵の表情に笑顔の余裕がある。撮影は、11月25日の数日前と思われる。まさに、この機が、同年7月31日、日高岩男少佐率いる鰐工作隊に夜襲をくらった、ロンベバイ湖ヤピナ島の連合軍水艇基地の隊員救助に向かった。